センゴク、喧嘩十段
キングダムでもそうだけど、合戦で集団と集団との流れを画くのは近年のコミックならでは。
こういう人の流れは小説では描きにくいし、実写映画でもあまりフォーカスしない。
これが面白かったので其の時あたり、ひとつは耳川合戦当りの歴史をあたってみたら登場人物の一人大友宗麟が面白い。
好色の度が過ぎ部下の美人妻を強奪する。
キリスト教に帰依して激しい廃仏神毀釈を行う。
寺社の仏像を道に投げ出して溝や穴に埋め、その上を軍に行進させる。
耳川合戦で大敗するとその反動で、神罰仏罰のせいで合戦に負けたのだと身内からも激しい批判と攻撃にさらされる。
一緒にいたバテレン宣教師も迫害される。
無茶苦茶キャラが立った人物なのだが、上記エピソードはコミックのセンゴクでは出てこない。
センゴク権兵衛が直接関わらなかったこともあるが、物語のライン上ではなかったためだろう、歴史創作はそこにあった面白いものを書けばいい訳でもないのだなと、変に感心したりした。
ケンカ十段と呼ばれた男 芦原英幸 松宮 康生。
コミックの『カラテバカ一代』は数世代の神話のようなもので、Bリーの燃えよドラゴンとともに、今もなお神話の輝きを保っている。
それとともに、そのリアルの姿も近年相当明らかにされて来ていて、大山倍達や梶原一騎の詳細なノンフィクションも出版されている。
コミックでの英雄の一人、芦原英幸の伝記。
ネタを面白おかしく膨らませた読み物、そんなものではなく、コミック上の事件とリアルを合わせて、淡々と現実の事件や経過を綴っていく。
著者が武道家で弟子にもあたる人なので、癖やアクが強いであろう武道家たちも著者の誠実な取材に応じて『読み物』ではなくて『あった事』『無かった事』が語られる。
それで取材したら現実は詰らないものでした・・・と言う訳では決してなく、全然なくて、余計な脚色や誇張がなくなった分、反ってリアルな面白さの厚みがある。
今でも喧嘩好きな人はいるのだろうが、ここまで求道的にも大好きにも見えるほどストリートファイトをやって来たというのは、本人の資質があるにせよ昭和中期という戦後の無軌道さが残っていた時代でないと考えられない。
道場破り系の話も多い、自慢話の系統では決してない。
また、素人目には極真会が没後四五分裂して残念なことだととかおもっていたが、ここまで個性的な人物たちが押忍の上位下達だけでは、例え大山倍達のカリスマがあったとしても統一は無理だったのだと納得させられたりもした。
武技の描写、怪我の描写もあきれるほど多々あります。
たいそう面白かった、誠実なノンフィクションです。