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島崎藤村の夜明け前

この本を楽しんで読めるようになるとは思わなかった。


民衆側から見た明治維新史なのだがイデオロギー臭も無く、最初は街道本陣の歴史ドキュメンタリーのように淡々と話は進む。
黒船やら外交やらは噂や伝聞で、低い効果音のように静かに小さく物語を震わせる。


馬籠と妻籠の街道の風俗や歴史、村社会でありながら交通の要所でもあるので大名や情報が行き交う様はおもしろい。
何気なく書いてるが長い構想と多量の資料、深い情熱があって周到に構成された作品だとわかる。
決して興にまかせてダラダラ綴ったものではない。

 

あった事ありそうな事を並べているだけにも見えて、ストーリーのあざとい展開は見られないが、ラノベやコミックやエンタに慣れた目には反って新鮮に見えたりする。


流通量の像台によるその街と社会と道の変貌と変遷の物語。

木曽の山中から江戸に向かう紀行文。

森林と共に生きる木曽のひと日と、森林の管理に気を配る尾張藩

日本初の流通小説?


和宮一行を通すために会堂道路幅の拡張が命ぜられる。
石垣や家を取崩して下がる。およそ4㍍弱の幅、当時の街道がいかに細い幅だったか。
一行の荷物を運び取扱うために膨大な数の人足を集める必要。

知らなかったが和宮一行は東海道ではなく中山道で江戸に向かった。

 

参勤交代の縮小廃止など維新の動乱のなかでは些事のようにも見えるが、中山道街道本陣では極めて影響の大きいものだった。

 

一部下巻では水戸天狗党御一行が街道に近づく。

維新動乱の本筋もそこかしこ押さえながら、庶民一般民衆の視点で有りながら階級闘争みたいなのに媚びることも無い。

 

現代の商業主義とは一線を画した、書くべくして書かれた文学の強みと言うか其の良質さに深く感じ入った。
文学史上に残る小説、歴史文学として名高いのは伊達ではなかった。
歴史的価値だけではない今なお光芒を放っている作品だった。

 

夜明け前 01 第一部上

夜明け前 01 第一部上

 
夜明け前 (第1部 上) (新潮文庫)

夜明け前 (第1部 上) (新潮文庫)