蝉しぐれ 藤沢周平
幼い淡い情景から、父が騒動に巻き込まれ、風景は一転して少年は落剝の途をたどる。
再び道は開け出すが、年をとるにつれて藩の政治騒動が浮かび上がる様に理解することが出来るようになり、自分もその中の一部分であることを知る。
藩中枢の政治対立は徐々にその姿を顕わにし始めて、ついには困難な使命を言いつかる事になる。
身分の高いところで、ゆらゆら蠢いている権力闘争が、徐々に主人公に近づいて来はじめる、その描き方がとてもリアル。
誰が敵で誰が味方か判らない点から始まる所とか。
時代小説なのに、このあたりの現代性が藤沢周平の魅力の一つか。
自然描写の確かさ、剣戟もロマンの純粋さも花を副えて、藤沢周平代表作の一つに数えられるのも納得の一作。
この世界に浸る事が出来ました