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シブミ

 ミュンヘン・オリンピックのテロ事件の犯人に報復すべく、ユダヤ人グループは立ち上がった。だが計画は事前に察知され、グループが虐殺されてしまう。虐殺の首謀者は巨大組織“マザー・カンパニイ”。一人生き残ったハンナは脱出し、バスク地方に隠遁する孤高の男に助けを求めた―“シブミ”を会得した暗殺者ニコライ・ヘルに。世界中を熱狂させた冒険小説の金字塔。

シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

シブミ〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

 

 1979年、とても古い作品で世界観劣化とか大丈夫かなと危惧していたが、読んでみて杞憂だったし、何よりも小説として面白かった。

 

主要な人物ニコライヘルは事情によって青年期を戦争を挟んだ日本で過ごすことになるのだが、これが真っ当な日本の物語なのである。

得意の考察も、外国人による優れた日本人観レベルで日本の読者を白けさせることはない。

外国人特有の勿体ぶった大袈裟な言い回しもあるが、的が外れている訳ではない。

 

日中戦争の開始あたり、中国が外国の介入による利益を見込んで、意図的に自国民を広範に閉じ込めて戦闘に巻き込み、意図的な自国民誤爆もあり、どんどん戦線を拡大していった状況を冷静に描く。
盧溝橋など些細な事件に過ぎなかった。

 

シブミとは文字通り渋味であって渋味流空手で活躍する小説ではない。

 

で、どういう話かというと、トータルな人間のストーリーなのだ。
ヘルの人の軌跡を間接的にずっと描いている。
本筋とは別にだけど、読む人は洞窟探検が小説の要素を占めるとは思わないだろう。

そういう意味では文学的。

読み難い訳ではない。

エンターテイメントの決まり事から外れているだけ。
古びない確かな視点と意外な面白さに満ちた一冊でした。

 

シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

シブミ〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)