わたしたちが孤児だったころ (カズオ イシグロ)
日の名残り、で見せたような、感情表現を行きつ戻りつしながら収束させるような文体、時系列についても同様にややゆらゆらしながらも確かに話を進める。
ああイシグロ氏だなと1.2作しか読んでいないのにフムフムと頷いたりする。
探偵と言う言葉が出ながらもミステリーではなくて、その周りから全体を見る様な、ちょっと不思議なスタイルでもある。
『 イシグロは、様々なタイプの物語スタイルを精緻に換骨奪胎していくことをひとつのテーマとして、小説を書き続けている作家 』 村上春樹
ロンドン、上海と物語は過去と現在を交差させながら、それでも文学的な語り口から、最後には肌がヒリヒリするような冒険に足を踏みいれる。
第1次世界大戦の前夜、阿片貿易と上海の闇、租界の無国籍なノスタルジア、かっての少年はロンドンで成功し名を揚げる。
その実力と名声をもって再び上海に向かう。
説み深めていくと、ちょっとサマセットモームの影響かと思えるような展開もあって、個人的に嬉しくなったりもしました。
この作品はミステリーではないけれども、明らかにミステリという形式に触発されて新たなるスタイルを創り出したものだろう。
小さな部分に焦点を当てれば、ミステリそのものといった部分もあるが、人間を見据えるロングレンジでかつ複眼的な視野は、上重な文学そのもの。
- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,入江真佐子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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