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日の名残り カズオ イシグロ 、読了

 文学らしい長編は久しぶりだから最後まで読み通せるかなとか、やや危惧していたが全くの杞憂だった。

1週間ほどの、実に愉しい読書でした。

 

古く著名な貴族の館で、長年にわたって執事を勤め上げてきた初老の紳士。

ふとしたことから長いドライブに出掛ける。

 

今はアメリカ人の手に渡った館の現状。

ジョークを生真面目に考察する姿勢。

長く波乱もありの執事生活の回想。

 

執事のパーソナルな話かと読み始めたのだが、イギリスの近代歴史にもザラリと触れるような奥深さもあって興味が尽きない。

 

翻訳の日本語はとても熟れている。

日本人が普通に日本語で書いた小説、そう言われても納得できそうなくらい。

 

英国の豊かな自然、館にかつてあった英国の偉大なるもの、それらを支えて来た数々の執事たち

メイド達。

パラパラと歴史的に有名な人物も、館を訪れたりする。

 

この小説はグレートブリテンに結実したモノノアワレ、なのかもしれない。

 

形骸化しても歴史ともに輝く栄光と品格。

全うした人生の一方で、欠けて失われる何か。

それでも作者の眼差しは暖かく優しい、あたかも夕陽がおちるのを見守っているように。

派手さもあざとい展開も無いが、読み終えて深い確かなものが伝わる傑作。

とてもよかったです。

 

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)