ある英人医師の幕末維新―W・ウィリスの生涯
ウィリアム・ウィリス(William Willis, 1837年 - 1894年)は、幕末から明治維新にかけて日本での医療活動に従事したイギリス人医師。
幕末維新に駐日英国公使館の外交官・医官として来日し、東京の初代副領事。
恫喝外交で名前を残したパークスの下で働く。
仕事は事務 兼 医師。
人手不足人材不足のため、医師と言っても必要に応じて膨大な事務作業にも追われる。
著名な日本通外交官イギリス人サトウ、と同時期に共に働く。
数年前に東北戦争あたりだけ読んで、後は読み残していたのだが、今回全部読破した。
全編興味深くて、軽い驚きもあった。
発掘された数々のウィリスの手紙や記録により構成。
一個人の視点で、社会的な視点に配慮していないので、
当時のイギリス人らしい差別的な人種観、
ご都合主義で偏狭な歴史観、
通俗キリスト教的な国家観・・・野蛮人の国とか、
等々が数多く見られておもしろい。
しかし、維新戊辰の戦禍を前にしてウィリスは、当時は敗者捕虜虐殺など珍しくなかった日本において、官軍側からの要請により、外国人としては単身戦地に赴き、敵味方の区別なく負傷者を助けた。
官軍に向っては絶えず捕虜の安全と医療の保証を訴え、言葉も通じにくい日本人医師とともに外傷の手当、骨折接木、四肢分断手術をなし、これを繰返し日本人達に説明し、実地に見せ、成功させ、患者の命を長らえさせる不眠不休の活躍をみせる。
鳥羽伏見から東北会津平定に至るまで、この長い間に、外人日本人と異人和人と勝者敗者を問わない、無私で高潔な道徳観に充ちた、高度で先進的な医療を成すウィリスの姿は、日本人に大きな衝撃と進歩を与えたと、察するに余りがある。
日本人だけでの勤勉な学問、貪婪な勉学という机上だけではなしえない、偉大な貢献を日本に残した人物。
その軌跡を描いた一冊。
著者は元日本駐在の英国外交官、にしてイギリス貴族。
当時日本の散見等。
狂犬病の犬にかまれた子供が5日で死ぬ。
天然痘の流行。
性病にかかっているのは日本人なら当たり前?のような状況。
薩摩では犬食は美味、とされていた。
日本の大名では、正妻の他に側女が3人いても東洋的な爛れたハーレム状態はない、屋敷の中では厳格な礼儀作法が生きていた。
イギリス領事、パークスは『変形的精神異常』。今日で言うパワーハラスメントで部下を殺した。
ウィリスは薩摩において、衛生的な食牛の殺し方を指導。
ちなみに此の本ではないが、会津籠城のとき牛食を勧めたのが日本医師の松本良順。
当初猛烈な反発にあったが、一度味を染めると大好評で、牛肉は籠城会津武士で奪い合いになった。
医師として実地に出向き治療しているので、官軍や幕軍・列藩軍による被害状況描写も多く、詳しい。
文庫になってても良いしkindleになってても良い作品。
単行本のままなのが残念。
安価で入手できるので、まだましか。