虚無回廊 小松左京
図太い骨太の本格SF小説。つくづく小松左京が亡くなったことは日本にとって残念な事だった。
『 “SS”―宇宙空間に突如出現した謎の物体。
真径一・二光年、長さ二光年という、人類の技術をはるかに超えた存在を、一体何者が何のためにつくり上げたのか?
AE(人工実存)の研究者・遠藤を中心とした探査計画は、AE・HE2によるSSとのコンタクトをはかる。
しかし遠藤は突然の死を遂げ、HE2からの通信も途絶えてしまう。 』
私の知性では及びもつかないリアルな概念を物語で網羅し駆使して、見る事の出来ない遥かなる景色を見ることが出来るのは小松大人ならでは。
これを読むと、氏の名短編集『ゴルディアスの結び目』からインスパイアされて開花したものが本作だと良く判る。
時系列と空間地理を軽々とスキップ出来るのは、ヒューマンドラマのベースでない物語の骨格と血肉を作者の手中に収めているから。
最近やっとリアルに出現し始めたAI 人工知能、その先の先を科学·宇宙·人類ベースで見透す博学を使い熟す知性。
高齢なってなおこの様な、ど真ん中の本格SF小説を執筆していたことは、今更ながら感嘆する。
未完に終わったのは残念だが、それでもなお輝きを放ち続ける作品。
未完のような感じでも、屹立した完成度の高さを求めるなら、短編集『ゴルディアスの結び目』。
また読みたくなって来た。