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幕末・戊辰戦争 -図解詳説  (中公文庫) 金子 常規 2017/3/22

 

この3月の中公文庫の新刊。

著者は元軍人で、戦後に自衛隊に入り野戦特科で活躍。

退職後は戦術史等にかかわる著作業に従事。

 

明治維新前後の小説や史書を読んでいると、歴史の事象について疑義がいろいろ湧いてくる。

小説で多いのが、大規模な戦闘について具体的な記述が乏しいこと。

鳥羽伏見の戦争なんて、官軍が勝つべくして勝ったみたいな纏め方が直ぐ出て、何があったかを大幅に省略してしまう。

実際は、幕府の陸兵は装備の近代化も訓練も行き届いていて官軍は苦労しているし、前近代化部分にしても、会津藩の槍の攻撃にも官軍は辟易している。

 

また、明治辺りに書かれた一級の史書を読んでみると、そういう具体の戦闘には記述が溢れているが、そうなると具体の地理的状況や隊配置などが興味が湧いてくるのだが、昔の地名が現存していない場合が多く、地図やグーグルmapでは後を追えないことが多い。

地名が細分化した極所のせいもある。

 

そこで本書。

維新前後の各戦闘について、簡単ではあるが具体的な図示もあり史実を追っているだけでは中々分かり辛い戦闘の顛末を示してくれる。

 

例えば官軍による上野彰義隊征伐。

当初官軍の大村益次郎の戦略では、黒門を主戦場として薩摩が引き受け、長州等が黒門左手を大きくゆくりと包囲して、実践慣れしていない関東兵を包囲殲滅、逃亡兵も長州等が予期した方向に逃げるのを捕獲、と読んでいた。

 

実際では、薩摩の黒門主戦場はその通りでも、長州等の包囲進行は数日来の雨で土地が泥濘となり進むことが出来ず、その方面も彰義隊もメインの黒門に応援に回り、一層の事黒門が激闘となった。

なお、長距離にて攻撃するアームストロング砲も上野山地域砲撃と威嚇とランダム攻撃には役立ったが、戦場へのpoint射撃には当時の技術では難しく、戦闘場所局所への攻撃には、高台から砲の前進移動が必要になり、黒門撃破に時間がかかってしまった事。

 

彰義隊は近代軍知識には乏しかったが戦闘意欲は旺盛で、それもこれもで薩摩の死傷者がそこそこ出る始末になってしまった。

そして長州の包囲がずっと遅れてしまったので、終盤の彰義隊逃亡兵も予定しない方面に逃げて官軍が網羅することは出来なかった。

明治当時の書物あれこれを読んでいると納得させられる分析だった。

 

この本を読んでいると、先の上野山戦争ではないが、史実の書物では同一事案について別視点からのものも多々あり、その具体的な時間の前後関係が分かり辛いことがある。

この辺の時系列の判断、読み取り方について、戦闘の結果分析についても変わってくるだろうなみたいなことは感じた。

 

新刊だから暫くは本屋においてあるだろうが、こういうマイナー本は数年のうちに極めて希少になることも多い。

速攻で購入したのだが、小説や史実記録の穴を埋める良書ではないかと、まだ半分ほどしか読んでいないが思いました。

まあこんな書物、急いで読むようなものではない、史実なんかと頭の中なんかで照らし合いつつ、じっくり楽しめそう。

 

図解詳説 - 幕末・戊辰戦争 (中公文庫)

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