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ロータス・イーター Kindle版  サマセット・モーム

短編集。

久しぶりにモームを読んだ。

存命当時は大衆小説家などと批判もあったモームは、物語の中での人の面白さを大事にした、軽薄な文学性などに捕らわれない真っ当なストーリーテラー

 

3人の太った女。

優雅に老いた、でも肥満した女性3人がリビエラで毎年ダイエット合宿する。

高級ホテル、専門医師のアドバイスメニュー、暇つぶしのトランプ、食事制限に関するあれこれ。

モームが日本に翻訳された当時は、第二次大戦前だろうか、その頃は夢のような異国風俗だったものが今や日本のダイエット界隈では珍しくもない風景。

しかし流石に食欲テーマを当時取上げた先駆者でもあり、地の実力もあり、第1次大戦前の風俗の魅力ありで、するするふんふんと普通の面白さを楽しませてくれる。

ブンガクーという堅苦しさ無いのは流石モーム

 

良心的な男。

最初に眼に留まった文字があって、『犯罪者植民地』の文字。

なんだろうこれは?

サン=ローラン=デュ=マロニ、今日で言うブラジルの直ぐ北、ギアナの街なのだが『犯罪者植民地』と称されている。

当時のフランスは犯罪者刑務所をここに造って、バカすかと大量に受刑者をフランスから南米に島送りならぬ南米大陸送りしていたのだ。

こんな歴史的史実一つでも面白い。

でも、街はのんびりした雰囲気もあって、囚人服を着た囚人が、街の仕事・用事とか小間使いにも駆り出されていて、街を歩くと縞々の囚人服と擦れ違うことは珍しくとも何ともない。

囚人ものんびりやっている。

ただし夜になると、監獄では朝まで監視を放り出してしまっていて、たまに原因不明で囚人が死んでることもある。

長い年月ここで過ごした囚人は、もうフランスでの伝手も何もなく、刑務所関係の仕事に喰い付き、土地を離れることが出来ず、仕事の無い時は昼間から酒を飲んでいる。

その地でモームは一人の囚人と出会う。

 

掘りだしもの。

当時、そろそろ少なく成りつつあったイギリスメイドの話。

翻訳が古いので、女中、と訳されるが紛れもなくエマやシャーリーのようなメイド。

 

ロータスイーター。

ここまで読んで気が付いた。

この本は読んだことがある。

 本棚を引っ繰り返すとあった。昔々の新潮文庫モーム短編集、『ジゴロとジゴレット』。

題名は変わっているが、中身も訳者も同じ

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たしか10代末から20代辺りに読んだのだろう。

記した3篇は覚えていなかったが、この『ロータスイーター』は個人的に強い印象があって覚えていた。

 

イタリアナポリ、その鼻先のイスキア島とカプリ島

今日でも有数のリゾート地である。

ここでモームが語られる話はどういうのだろうか、今風に言えば『ボクは今日会社辞めてきました。』のバリエーションか。

私は昔からこういう、普通の人の生き方から外れて無為にすら見える軌跡に強く興味を持っていた。

人によれば、モームの厳しい皮肉と批判をこの小説で読み取るかもしれないが、私は優しい人が疲れてしまってキツイ言葉をポツリと口にしたような印象を受けた。

いろいろと示唆も読み取れ、改めて読んで感銘があった。

 

新潮文庫からフォントも文字校正もやってるらしく、電子書籍Kindleになって読み易くなった。

 

ジゴロとジゴレット。

リビエラの社交界。

大きなディナーの会場で高飛び込みのアトラクション。

19メートルの梯子の上から小さな水槽に飛び込む。

水槽表面はガソリンが炎上している。

その生業をする男女。

長編小説的な奥行もあり、様々な人々の視点あり、人目を惹く派手さもあり、それを本当に小さく短編にまとめている。

まさに短編小説の名手の面目躍如たる作。

  

ロータス・イーター

ロータス・イーター

 

 

下と内容は同じ。

ジゴロとジゴレット (モーム短篇集13)

ジゴロとジゴレット (モーム短篇集13)

 

 

メイド、といえば。