新選組の後始末どすえ
当時まだ生きていた江戸の古老からの聞き書きは、ただの小説とは比べるべくもない迫力がある。
新撰組、近藤や沖田の軌跡も言うまでもないが、かえって聞き書きの該当者というか話し手、例えば八木為三郎に注目するのも面白いと思う。
新撰組は当初、京都の八木家に間借りして活動していたが、その八木家において身内の芹沢鴨暗殺が行われる。
このドキュメントも面白いが、八木家の反応も今日的視点から見ると中々なものがある。
芹沢鴨暗殺は、表向きは長州勢ら勤王派の暗殺ということに装っているので、芹沢鴨の葬儀もきちんと上げ、近藤や土方は深刻な顔をして嘆いたたりしているのだが、八木家の人の目には暗殺実行直前に土方が下見に来ている、芹沢鴨が寝ているかどうか確認しているのを目撃してるし、いろいろとバレバレなので八木家夫婦して陰で可笑しくて笑いを堪えていたとか、時代が違うとはいえ京都の人のメンタリティーはたくましいというか、ちょっと違うものがある。
後になって、2年余り過ぎて新選組が八木家を出で他の地に移転することになったとき、近藤が八木家に御礼の形として3両ばかり包んで渡したのだが、もともと金銭的な家貸しでは無くて公儀のためとは言いながら、八木家から借りた武具は壊して返す、芹沢のように畳上で数人斬殺はする、刑罰としても切腹介錯は良くあることで、日常的には酒をせがむ飯食い諸々夜半までと、迷惑の限りを尽くしていたので、八木家当主が3両を目にして思わず『2・3年もいた家賃にしては安いな』と笑ってしまったら、後で近藤が赤面していたと沖田の言。
このあたり、千年の都京都の町人は権力者に振り回されるだけではない、したたかな強さがあるようで実に興味深かった、です。