読後、真実の10メートル手前 米澤穂信 著
さようなら妖精、のサブキャラをメインに据えた短編集だが、独自の充実度と完成度は高い。
そこらにある下手な長編小説よりよほど読み応えがあった。
短編集の内容、といえば
マスコミ露出の多いITベンチャー会社の秘書、
列車の人身事故現場で携帯写真を撮り続ける女、
少年少女の心中事件、
老人の孤独死、
夏の日に目撃された幼女殺し、
局地災害での孤立した老夫婦の救出。
そんな現在や、少し前にあった、ありそうな出来事に向かって、様々な形でアプローチしていく。
事件の形が見えてくる魅力、主人公の立ち位置から微妙に浮かび上がってくるキャラの魅力。
一見ありふれた事件だから、誰にでも書けそうなものに見えて、なかなかこんな風には書けるものではない。
表題作、真実の10メートル手前は、元々長編「王とサーカス」の前日譚というか一挿話としてあったものらしい。
ストーリーとしての完成度、長編とのバランスから、結果別個のそれぞれの作品として完成されたらしい。
もっともなるかな、でしょう。
中には、さようなら妖精、の事件に間接的に触れた作品もある。
この短編集は、古典的な探偵ミステリでもあり、社会派ミステリでもある。
だが、そんな従来のスタイルの囚われない、著者らしい作品集であって、もともと古典部シリーズの一作として書かれた「さようなら妖精」から生まれた大刀洗キャラの魅力は、今や紛れもなく著者を代表的するキャラになった。