儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫) 米澤穂信
乱歩や谷崎や横溝や鏡花、探偵や耽美や猟奇や深夜とかが彩る絢爛。
今なお魅力的な作品は、私たちがそんな作品を読み漁った少年少女の時代の記憶と重なるし、その作品群が書かれた戦前の世界への追慕にも繋がる。
だからそんな世界の香りを漂わせるため、作者の取った手段は周到で、舞台設定は戦前の大きな屋敷に住む少女と女中、お嬢様とメイドのような配置を主軸に、数話とも似たような設定にもかかわらず全くそんなことを感じさせず、同種のストーリーが逆に共鳴して物語全体の奥行を広げている。
狂乱した兄から隠れて、日本刀と槍を手に取る少女達。
閉じ込められた家族の世話を命ぜられた妾の子供。
大役から解放されて山麓の別荘守に就くメイド。
高い教養と知性を持つ使用人少女。
個々の作品が互いに関連することはないけれども、作品の在り方自体が微妙に別の作品の伏線になっている構成はみごとなもの。
含みを持たせた表現は正に作者の文章力のなせる業で、直接指し示すよりも含んだ間接的表現の効果によって、読者は自ら自然に真相にたどり着いたような臨場感すら持つことができる。
ふとした言回しによって示唆される話もあって、これなどはマザーグースや俳句の詞通りに殺人が起る古典本格推理へのオマージュだろう。
たいへん楽しめました。
満願 米澤穂信 (著) 新潮社、 読了
http://oidon00.hatenablog.com/entry/2014/06/15/075457
夏期限定トロピカルパフェ事件 創元推理文庫 [Kindle版] 米澤 穂信 (著) - oidon00のブログ