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坂本龍馬と明治維新  マリアス・B. ジャンセン

 

坂本龍馬と明治維新

坂本龍馬と明治維新

 

 徳川体制の章では、完全地方自治で自給自足の社会から農業生産性向上による余力が生まれる。

その余力が農村で富として蓄積されていく。

また、参勤交代により地方武士が貨幣経済に巻き込まれていき、貨幣の主役たる町民クラスが勃興する様をダイナミックに説明してくれる。

経済を説明するのに 学術用語や概念を使うことなく平易に語る。

 

アニメとノベルの『まおゆう』では意図的だろうが学術用語や概念をポンと挿入して、特異な効果を果たしていた。関係無いけど。

 

小説ではなく歴史書なので、社会歴史経済を説明して欠けるところがない。

全体を表現しやすいのだ。

なおかつそれが平易に語られれば読者にとって嬉しいものだ。

小説だと人の行為や会話にどうしても引き摺られてしまう。

面白くしないといけないし。

 

出版社営業の都合で出された歴史書ではなくて、著者の学術的集大成としての出版なので、特定のテーマに偏りすぎることなく、題材の出し惜しみもない。

土佐視点の維新史という限定が付くものの、維新全体の姿を描いて余すところがない。

 

土佐の上士と郷士の表現でも、小説だとどうしても身分違いの理不尽な扱いとか差別とかになるけど、一方で藩運営のために農民から身分を引き上げて武士にしてきたり、多数の郷士を創ってきた社会の動的流れを描いてないことが多い。

郷士のデモ行為で理不尽な上士が追放されたこともあった。

 

本作ではなくて、維新物語一般の悪癖として主人公が歴史の多くに、それも過大に関わった表現になり、一方で同等の歴史的役割を過小に見なしたり無視したりする傾向はある。

そういう悪癖から、距離を置いたバランスのとれた既述は大きな魅力だ。

 

維新勤皇の志士達の精神的な変化を四段階に分類して説明しているが、説得力のあるもの。

悪役とヒーローの分類でもないし、テレビの放送コードに準じた見方でもない。その時代と人を描いて充分なもの。

 

山内容堂大政奉還のアイデアを具申されたら即飛びついたように思っていたが、結構長期間考え込んでいて、最後には家臣にも衆議して決定を伝えていたとは知らなかった。

結局その時間経過で、大政奉還イデアが時間切れのようになってしまった、という面もある。

この辺りの維新終盤の政略謀略の駆引きは、小説などより余程スリリングで面白い。

 

明治維新は、その全体像を描いた書物は意外にない。

ドラマと背景の膨大さ期間の長さは簡単に表現できるものではない。

比較的コンパクトな大冊 ? で、偏りのない歴史的俯瞰を見せてくれる本書は、得がたい絶賛お薦めの名著。