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海賊と呼ばれた男  挑戦 (新潮文庫)  歴史の力強さ

悪く言えば一企業の社史に近いのだが、何よりも文章力が違う。

また、戦後の物語は数々今までにもあったが、戦中戦後作家の書いてきたものは貧乏くさい感じが拭い切れないものが多い。

ジャンルは異なるだろうが、吉行・遠藤・大江等々の雰囲気がそうだろうし、あのスタイリッシュな開高健でさえ戦後の飢えの記憶は痛切過ぎて読むには引いてしまう。

だから、純粋な戦後生まれの百田氏が、従来の戦後の物語に付きまとっていた貧乏臭さや切迫感を取り除き、未来に向かう青年の成長物語のようなタッチで的確に再構成して見せた作品である。

 

中東へ石油を搬送に行くこのストーリは、同じ題材を石原慎太郎が小説『挑戦』で書いている。

貧乏くさくはないものの、より個人を描く小説で、本作との印象は相当異なる。

潮文庫にもなった有名な作品なのに、本作との比較評論がネットでは見当たらないのは不思議

 挑戦 (新潮文庫)

 

戦国時代や明治維新あたりには詳しくても、戦前から昭和の歴史は知らない事が多い。

政府の護送船団方式や石油制経済にかける規制の強さというものは、今や一昔前の風景になってしまった。そんなやり方のままでは、石油ショック時には本当の石油不足が起っていたに違いない。あの時は中東からの輸出分量不足は一切なく価格調整が全ての要因だった。

何よりも社会と闘い現在をつくり上げてきた人々の人生が忘れられている。

 

敗戦と云う歴史価値断絶もあるし、新聞社マスコミの事実から乖離した教条的な報道が続いていたせいもある。そんな歴史の空白?や私達の盲点を埋める意味でもこの作品は価値がある。

だから百田氏は、順序立てた歴史語の単調さをあえて排除する事無く、一つのロマンではなく、長い事実の力強さを描くことを選んだのだろう。

 

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 下

海賊とよばれた男 下